訪問看護ステーション看護の力 統括部長/管理者

皮膚・排泄ケア認定看護師 安藝 奈々枝

在宅療養支援を支える地域包括ケアシステムでは、訪問看護は多くの役割の中の一部です。しかし、様々な病気や障害などを抱えながら住み慣れた地域で安心して暮らすためには不可欠な役割だと考えます。その訪問看護の中で、皮膚・排泄ケア領域というのはどの方にも関連しており、この分野における在宅療養支援として何が求められるのでしょう。

日本看護協会が認定する、ある特定の分野において熟練した知識・技術を有するものとして、19分野の認定看護師が存在します。皮膚・排泄ケア認定看護師もその一つです。スキンケア、褥瘡などの創傷ケア、ストーマケア、排泄や失禁に関連したケアを専門とした看護師を言います。人が死ぬまで満たされるべき3要素(食べる・寝る・排泄)のうち排泄は、皮膚・排泄ケア領域の全てが関連しており、在宅療養される全ての方が穏やかに安心して生活を送ることができるように必要なケアであり、どのような支援が求められるのかを考えます。


①褥瘡予防・ケアこそ多職種連携

2016年に日本褥瘡学会が実施した褥瘡推定発生率(以下推定発生率)・褥瘡有病率(以下有病率)が全国調査され、訪問看護ステーションにおける推定発生率(0.91)・有病率(1.93)ともに低下傾向であり、訪問看護師の褥瘡対策への知識と技術が向上したと評価されました1)。一方で、日々訪問看護を行っていると、介入時にすでに保有している、新規発生ともに少なくありません。その理由として考えられるのは、在宅療養者の増加、在宅療養者の高齢化、褥瘡発生リスクの高い病状や治療状態にある方の増加、介護環境が十分ではないなどがあげられます。実際に、当事業所でのR3年3~8月の推定発生率は1.42、有病率は4.60と全国調査と比較しても優位に高い結果でした。その褥瘡保有・新規発生した対象者を見てみると、癌などの終末期・高齢寝たきり・障害による麻痺の方など褥瘡発生リスクが高い方が多くを占めてり、褥瘡予防のための介護体制の整備が困難な方も少なくありませんでした。在宅においては24時間体制で褥瘡予防を行う介護体制の整備が困難な場合が多く、褥瘡予防対策のための在宅療養支援の難しさの現れだと感じています。長寿国日本は今後も少子高齢化は進み、さらに介護体制の整備が困難になる可能性があり、地域包括ケアシステムを上手に活用する必要があります。そのためには、まず在宅療養者の褥瘡発生リスクのある方の特徴を知ることから始める必要があります。どのような方が褥瘡発生リスクが高く、対策をとる必要があるのかを知ることが褥瘡予防の第1歩です。最も大きな特徴は高齢化です。高齢者はそれだけで褥瘡発生リスクが高いことは想像がつくと思いますが、訪問看護を利用される高齢者の多くは皮膚の脆弱化・低栄養・痩せ・骨突出のような身体的変化や、可動性・活動性・知覚認知の低下が起こり、褥瘡発生の危険性が潜んでいます。高齢という褥瘡発生リスクに加え、癌などの終末期や神経難病、褥瘡発生リスクのある疾患や治療状態が加わることでさらに褥瘡発生リスクが上昇していきます。このような在宅療養者に対し、褥瘡予防やケアを行えるように地域包括ケアシステムを活用します。

在宅での褥瘡予防・管理の基本は、①褥瘡発生リスクのアセスメント②外力(圧迫・ずれ)の除去:体位変換・耐圧分散寝具の使用③皮膚の清潔:失禁の管理や発汗時のケア④栄養管理:経腸栄養や静脈栄養の管理⑤在宅療養者、家族、ヘルパーさんへの支援2)とされています。この5つを地域包括ケアシステムに関わる職種で役割分担をします。その中でも褥瘡発生リスクアセスメントは、対象者個体のみではなく介護力やサービス利用状況、家族的背景などの評価も含め包括的なアセスメントを行う必要があり、看護師の重要な役割と言えます。では、包括的アセスメントはどのように行うとよいのでしょうか。活用できるツールとして在宅版K式スケール(図①)があります。この特徴は介護力の評価も併せて行うことができます。前段階評価は個体要因に加え介護者の介護知識(①除圧・減圧②栄養改善③皮膚の清潔保持の3点について述べることができるか)を評価します。引き金要因では褥瘡を引き起こすきっかけになる要因の評価であり、食事の提供が行える状況にあるかという介護力を評価します。これらを評価した上で、個体要因に加えて介護力をどのようにサポートするかを検討し、地域包括ケアシステムに関わる職種で役割分担をします。この役割分担を行うのがケアマネジャーの役割と言えます。ケアマネジャーは訪問看護師と情報共有し、①介護者は必要なケアはどこまでできるのか②どの部分をサポートする必要があるのか③その頻度はどうか④介護負担や金銭的な負担など無理がないか⑤介護サービスをどのように計画すれば必要なケアを提供できるのかを共に検討し、訪問看護・訪問介護・福祉用具・通所サービスなど必要な職種と役割分担を行えるよう介護サービスの計画を立てていただきたいと考えます。

図① 在宅版K式スケール 褥瘡ガイドブックよる抜粋


 訪問看護師としてもう一つ重要な役割があります。それは褥瘡発生した場合の役割です。褥瘡予防・管理の基本に加え、ケア方法の選択や指導内容を生活の中に組み入れ管理できるように支援することです。家族など介護する方が主となり管理を行うため、何がどこまでであれば可能かを見極め支援することが求められます。また、対象者の病期や病態、褥瘡の重症度、介護体制を把握し、治癒を目指せる褥瘡なのか否かを判断し目標設定することが必要です。家族などの主介護者は、褥瘡を見て本当にこれでいいのか、よくならないのか不安を抱えています。訪問看護師は、症状緩和により褥瘡治療を優先することが可能か、それともQOLを考え症状緩和を優先するのかを見極め目標設定をした理由をご家族に適切に説明し不安軽減に努めいただきたいと思います。褥瘡予防・管理どちらにおいても、看護師が行う包括的アセスメントは必ずケアマネジャーと共有し、それぞれの職種が役割を理解してサービス提供を行うこと、他職種間での連携を密にできる関係性を築いていけば地域包括ケアシステムは上手に活用できると考えます。このように、褥瘡予防・管理において訪問看護師の役割は重要ですが、自身の考える対策がこれでいいのかなと思う場合があると思います。新潟県内の訪問看護ステーション98施設に訪問看護師が抱える在宅褥瘡管理での困難についてアンケートが実施されました4)。主治医へのアプローチ困難や知識・スキルの限界、家族の協力が得られないなどの回答があり、それらを解決するにあたり、皮膚・排泄ケア認定看護師へ希望することとして、「双方の所属に制約されず相談できる窓口」という回答が最も多かったとされています。訪問看護師テーションに所属する皮膚・排泄ケア認定看護師は全体の数パーセントとまだまだ充足していない現状がありますが、在宅における褥瘡予防・管理に貢献したいと常に考えており、気軽に相談できる関係作りを課題とし活動していきたいと思います。


②人生の最後まで続く排泄ケア

 排泄ケアには失禁ケア・排泄障害へのケアなどありますが、今回は失禁ケアに着目したいと思います。その中でも、今回はオムツケアについてお話します。

 排泄ケアは生まれた瞬間から人生の最後まで続きます。生まれてから自立した排泄が高齢化や何らかの障害によりトイレでの排泄が十分に行えなくなった場合、スキントラブルや褥瘡予防に努める必要があり、その一つとしてオムツケアは重要です。オムツケアに関連したスキントラブルには、真菌感染・褥瘡・便失禁に関連する皮膚障害があります。これらを予防するためには、まず適切なオムツの選択と使用が必要です。オムツ使用がもたらす問題として①皮膚への負担②座位姿勢と崩す③動作を妨げる④自尊心を損なう可能性⑤臭い⑥ゴミの問題が挙げられますが、①~④については正しくオムツを使用することで解決します。オムツの使用方法での間違いとして最も多く見られるのが多重使いです。尿漏れがするという理由で何重にも尿パットを重ねている場面がまだまだ多く見られますが、多重使いをすることでは尿漏れは改善するどころか逆に尿漏れの原因にもなり得ます。多重使いをするとどのような影響があるのでしょうか。オムツの通気性は品質改良によりとても良くなっていますが、多重使いすることで高温多湿環境となり皮膚の浸軟を引き起こします。浸軟した皮膚はバリア機能を失い、細菌が侵入しやすくなり炎症や真菌感染などの皮膚炎を引き起こしてしまいます。もう一つ多重使いによる影響は、褥瘡発生させる危険性が高くなることです。例えば尿パットを2枚重ねオムツを使用した場合、厚みは合計約4㎝にもなります。4㎝の厚みの下着をつけると想像しただけでも適切ではないとわかると思います。オムツの多重使いは厚みを増強させ、体圧を上昇させます。さらに姿勢の崩れを起こし、皮膚へのずれ力が加わり褥瘡発生させる原因となります。以上のように尿漏れの助長・スキントラブルの原因・褥瘡発生の原因・姿勢の崩れなどを引き起こすため多重使いは危険であり、適切なオムツの選択と使用が必要というわけです。では、適切なオムツの選択と使用はどのようにすればよいのでしょうか。基本となるのは、オムツ1枚に尿パット1枚使用が原則です。オムツサイズは、テープ式紙オムツはヒップサイズ、パンツ型紙オムツはウエストサイズで選択し、尿量や交換間隔に合わせた尿パットを選択します。また、テープ付きとパンツ型では使用する尿パットは異なるので、必ず確認しましょう。例えば、定期的に交換できる日中は吸収量が2回分(1回吸収量は約150ml)の尿パット、入眠を妨げないために交換しないように夜間は4-6回分の尿パットを選択することができます。1日の尿量や要介護者と介護者の状況に応じて、オムツの選択を提案できるようにしていただきたいと思います。正しい選択ができれば使い方です。尿パットは紙オムツのギャザーに収まるように準備します。オムツの中心線を脊柱に合わせ、オムツのギャザーの中に臀部が収まるようにします。そして、尿パット・オムツの順にギャザーを鼠径部に沿わせながら当て、テープは下側から順に止めます。このように、個々にあったオムツを適切に選択し使用をすることで、快適な排泄ケアを提供できるようになります。人生最後まで快適な排泄が行えるように、介護者への支援を行っていただきたいと思います。


③ストーマ保有者の在宅療養支援は退院後が本当の始まり

 日本全国に皮膚・排泄ケア認定看護師が充足し、ストーマ造設する前から支援されるようになりました。しかし、多くの患者さんは癌など病気に衝撃を受けた上、ストーマ造設したことでボディーイメージの変化に伴い、身体的のみならず心理的・社会的な問題が混在しています。入院中は手術という大きな壁を乗り越え、ストーマケアを習得することで精一杯です。また入院期間短縮もあり、退院後の生活をイメージできず不安を抱えたまま退院することも少なくありません。そのため、ストーマケアこそ在宅療養支援が必要だと感じています。当事業所でも2年間で18名のストーマ保有者の訪問をしてきましたが、「これを見た時、窓から飛び降りようかと思った」「これさえなかったらな・・」「これは一生?」「人に見られたくない」「何年たっても落ち込む」「自分でできなくなったらどうしよう」などの声をお聞きしました。このように現状への落胆や未来への不安など抱えているストーマ保有者が、ストーマと共に安心して生活できるように支援していく必要があります。そのためには、①漏れないケア②できない・大変と思わせないケアの提供と、排泄経路が肛門や尿道からではなく腹部からの排泄になりますが、排泄ケアとして捉え支援していただきたいと思います。また、ストーマ保有者への精神的支援では、心理的な支援を考えてしまうと思いますが、「よいストーマケアのないところに、よい精神的ケアは存在しない」5)と言われており、漏れや皮膚障害を起こさず、定期的な装具交換ができることを目指していただきたいと思います。

 よいストーマケアを提供するためには、訪問看護師はストーマケアの知識・技術の習得は大前提ですが、私自身が大切にしていることはストーマケアの準備は万全にすること、そしてケアはできる限りシンプルにすることです。準備を万全にすることで、慌てず落ち着いてケアができ、シンプルにすることで難しい・できないと思うことがないようにします。この2つができれば、ストーマ保有者は「自分にもできるかも」「そんなに難しいことではないのかも」「ストーマとともに生活できるかも」と心境の変化をもたらすのではないかと考えています。

 ストーマ保有者は常に不安を抱えて生活しています。在宅療養を支える一員として皮膚・排泄ケア認定看護師という資格を持つ自身の役割は、「大丈夫ですよ、安心して帰ってきてください」この一言がストーマ保有者を安心に導くと考えており、この言葉が言えるように今後も自己研鑽に努め、在宅療養を支える関連職種への支援を継続していきたいと思います。 最後に、皮膚・排泄ケア領域での在宅療養支援はまだまだ発展途上です。対象者が最後まで安心・安楽に過ごせるように、在宅療養を支援する全ての方と協力し合いながら支えていきたいと思います。

  1. 日本褥瘡学会 実態調査委員会:褥瘡学会誌(Jpn.J PU),20(4):423~445.2018
  2. 日本褥瘡学会:在宅褥瘡テキストブック,照林社,2020
  3. 溝上祐子他:褥瘡・創傷・スキンケア WOCナースの知恵袋,照林社,2019
  4. 横野知江他:褥瘡会誌(JpnJPU),23(1):39~45,2021
  5. ストーマリハビリテーション講習会実行委員会:ストーマリハビリテーション基礎と実際第3版,金原出版,2016