はじめに

病気の発症はご自身はもとより、ご家族の生活にも変化をもたらします。自分で身の回りのことができなくなり、介護が必要になる方もいらっしゃいます。

大切な家族の介護をお願いしたいと考え施設を探すものの、医療的な処置が必要となれば、入居を断られるケースも少なくありません。

センチェリーテラス船橋壱番館・弐番館では、ご利用者様の介護の課題と向き合いながら、サービス提供を行っております。それぞれのニーズにお応えするため、厚生労働大臣が定める疾病等「別表第7」(※)に該当する方にもご入居いただいております。

※別表第7とは

医療保険による訪問看護が可能な病気を定めたものです。通常、要支援・要介護認定を受けている方は「介護保険」が優先となりますが、厚生労働省が定める疾病等(別表第7)や、他の該当する状態によっては「医療保険」が適応となります。

別表第7は下記の表をご覧ください。

厚生労働大臣が定める疾病等 別表第7
1.末期の悪性腫瘍10.多系統萎縮症(線条体黒質変性症、オリーブ橋小脳萎縮症およびシャイ・ドレーガー症候群)
2.多発性硬化症11.プリオン病
3.重症筋無力症12.亜急性硬化性全脳炎
4.スモン13.ライソゾーム病
5.筋萎縮性側索硬化症14.副腎白質ジストロフィー
6.脊髄小脳変性症15.脊髄性筋萎縮症
7.ハンチントン病16.球脊髄性筋萎縮症
8.進行性筋ジストロフィー症17.慢性炎症性脱髄性多発神経炎
9.パーキンソン病疾患〈進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症およびパーキンソン病(ホーエン・ヤールの重症度分類がステージ3以上であって生活機能障害度がⅡ度又はⅢ度のものに限る)〉18.後天性免疫不全症候群
19.頚髄損傷
20.人工呼吸器をしている状態
(夜間無呼吸のマスク換気はのぞく)

出典:厚生労働省 社会保障審議会 訪問看護


別表第7に該当する方は、医療的な処置が多いため、下記に示す範囲で訪問看護の利用が可能となります。

  • 1回30~90分
  • 週4日以上
  • 1日に2~3回
  • 複数の訪問看護ステーション

詳しくはお問い合わせください。


事例紹介

今回はY様の事例をご紹介します。当初は脳出血後遺症に対してのケアを中心に行っていましたが、入居中末期ガンであることが判明し、お看取りまでさせていただきました事例です。

Y様(男性)

  • 年齢70代
  • 主な病名:脳出血後遺症、咽頭ガン(入居中に判明、ステージ4)
  • 主な障害:ADL障害(※)、摂食嚥下障害により胃ろうあり、自力で痰を出すことが難しく気管切開をしている
  • 家族構成:本人、妻、娘(別居)
  •  導入サービス:訪問診療、訪問看護、訪問リハビリ、訪問入浴、福祉用具、訪問歯科、訪問薬剤師

※ADL障害とは

ADLとは「Activities of Daily Living」の略語で、「日常生活動作」の意味です。人が生活する上で毎日行う基本的な動作を指し、食事や入浴、排泄の動作、移動、整容などがあります。ADL障害とは病気やケガ、老化などによりこれらの動作が困難となることをいいます。

ケア上の課題と目標(一部抜粋)

ケア上の課題と目標を一部抜粋しています。私たちは課題に対し目標・サービスを立案、実施いたしました。

ケア上の課題長期目標短期目標
1.嚥下障害があり、胃ろうから経管栄養を注入している栄養状態を保てる胃ろうから安全に栄養を摂取できる
2.自力で痰を出すことが難しく、気管切開をしている楽に呼吸ができる適切に吸引をしてもらえる
3.咽頭ガンにより痛み・全身の苦痛・呼吸苦がある痛みや苦痛を最小限にし、生活できる痛み止めを適切に使用し、苦痛を軽減できる
4.奥様の介護負担があるお二人で穏やかに生活できる奥様が不安を表出できる

入居までの経過

Y様はもともとは九州にお住まいの方で、脳出血発症後は地元の施設に入所され、胃ろう(栄養剤をいれるためのお腹の穴)からの栄養注入と、気管切開(痰を吸引するため喉に穴を開ける処置)に関わるケアを受けていました。

しかし痰の量が多く、頻回な吸引(機械と管を使って痰をとる処置)が必要で、対応が難しい、と言われたこともあったそうです。そこでご両親を心配される娘様が当住宅でのケアをご希望され、Y様と奥様お二人でご入居されることとなりました。

ご家族様のご希望は、娘様夫婦やお孫様との外出が自由にでき、施設への訪問が気軽にできることでした。また、奥様はY様を支えることが生きがいでもあったため、吸引などの介護を継続したいとお考えでした。当住宅では、ご家族様のご希望に沿った生活が可能であったため、入居をお決めいただいております。

九州からの移動手段が検討され、最終的には新幹線での移動は多目的室を、東京駅からはストレッチャー対応の移送サービスをご利用になられました。なお東京駅からは看護師による付き添いを行いながらご入居されています。


入居前期

ご入居後は健康状態の管理とともに、ケア上の課題を重点的にサービスを提供いたしました。

お食事は安全に配慮し、胃ろうから栄養剤や水分を注入しました。ベッドから離れる時間を設け、他の方との交流も図っていただけるよう、昼間の水分補給はリビングで行っています。

ご自分で痰を出すことが難しかったため、痰がからんだ際はお部屋に設置されたコールボタンにてお呼び頂き、随時吸引を行っております。

奥様も痰の吸引や身の回りのお世話などされていたため、疲労やストレスの蓄積が懸念されました。負担が軽減できるよう声がけを欠かさず、傾聴に努めました。次第に環境にも慣れたご様子で、奥様からはさまざまなお話をうかがえるように。「こちらに来て正解です」とのお言葉もいただきました。


入居中期

奥様と穏やかな日々を過ごされていたY様ですが、ある日気管切開部分からの吸引で、多量の血液が吸引されます。主治医の診察後、検査目的でA病院へ入院されました。検査の結果、ステージ4の咽頭ガンであることが判明。「もっと早く地元の病院で検査していればよかった」と悔やまれる奥様の想いを受けとめ、精神面のサポートもいたしました。


お看取りまで

Y様の入院後、奥様は連日のように当住宅と病院を往復され、お疲れのご様子でした。お二人をサポートしていた娘様は「苦痛が少ない状態で、最期は住み慣れたところで穏やかにすごしてほしい」と、退院を決断されます。

私たちも、奥様・娘様の想いを重く受けとめ、精一杯のケアでお支えさせていただきました。


別表第7の状態であったため、訪問看護を増やし、サポート体制を強化しました。Y様の退院後はできるだけ苦痛のない状態で過ごしていただけるよう、医師との連携を図り、苦痛の軽減に努めました。奥様・娘様に寄り添い、精神的な支援にも力を入れました。

退院から1週間後、Y様はご家族に見守られながら息をひきとられました。

奥様からは「ここで過ごせた時間はよかった。地元からここに来てよかった。ありがとう」「みんなで過ごせてよかった」とのお言葉をいただきました。当住宅での穏やかなお看取りにご満足いただけたものと考えております。


やさしい手がめざす高齢者住宅の3つのポイント

Y様の事例を通し、私たちはさらなる社会貢献に努めたいと考えております。私たちが目指すもののうち、今回は特に3つのポイントをご紹介します。

1.「住み慣れた家で、最期まで生きる」その想いを、私たちが実現いたします

今回のY様は入居中に咽頭ガンの末期であることがわかりました。「住み慣れたところで穏やかな最期を過ごしてほしい」という、ご家族の思いに寄り添い支援いたしました。

私たちはご利用者様、離れて暮らすご家族様が安心して生活できるよう、介護と医療の連携をはかってまいります。


2.「情報開示システム ひつじ」での情報共有

大切なご家族と離れて過ごすと「今日はちゃんとご飯を食べただろうか」「この前熱があると聞いたけど、その後は大丈夫だろうか」などと心配になることもあるでしょう。

やさしい手では、独自に開発した情報開示システム「ひつじ」を導入しております。ご利用者様の経過や、サービスの利用状況などを確認できるサービスです。チャット機能(インターネットでメッセージを送受信できる機能)で、お問い合わせやご要望の書き込みもできます。

情報開示システム ひつじ

3.ACP(アドバンス・ケア・プランニング)の支援を行います

アドバンス・ケア・プランニング(以下、ACP)とは、「人生会議」と呼ばれ、近年広く知られるようになりました。対象者自身が大切にしていることや望み、希望する医療やケアについて考え、家族や関係している医療・介護関係者と話し合うことを言います。希望や価値観は、自分が望む生活や医療を受けるために重要な役割を果たします。

人は健康なときは、自分が大切にしている価値観を意識せずに過ごしているものです。普段は、人生に関わる大きな意思決定をする機会は少ないかもしれません。

しかし、いつでも、誰でも命に関わる大きな病気やケガを負う可能性があります。命の危機が迫った状態になると、多くの人は自分の医療やケアを決められなくなると言われています。そのため、余裕のあるときから、自分はどうしたいか・どう生きるか考えることが大切です。

私たちはご利用者様、ご家族様のお話をうかがい、ACPの支援を行い、人生の最終ステージを「その方らしく」過ごせるよう努めてまいります。心配なことがございましたら、いつでもご相談ください。

参考:厚生労働省・神戸大学 人生会議とは?


私たちは、これからも心を込めてお一人おひとりに合ったサービスを提供してまいります。

ご質問や資料請求など、お気軽にお問い合わせください。