みんなの在宅クリニック広島西

院長 嘉村 雄飛

この度、コラム「退院支援について」を執筆することになりました、みんなの在宅クリニック広島西の嘉村雄飛です。私はリハビリテーション科医(専門医)として20年間にわたって回復期リハビリテーション病棟専従医(以下、専従医)として勤務して参りました。従って退院支援および退院前合同カンファレンス(以下、カンファレンス)の経験が豊富と言っても差し支えないかもしれません。

しかしながら実際には退院支援がうまくいかなかった事例がほとんどです。

手術やリハビリテーションを頑張った患者さんが生活期が始まった瞬間(ほんの数日で!)、「動けない」、「もう一回入院させて」と連絡してくることもありました。

なんで?どうして?カンファレンスまでしたのに!そう思うこともありました。

そしてカンファレンスを開催していくにつれて少しずつ気が付いたことがあります。それはご家族だけでなく、かかりつけ医、看護師、訪問看護ステーション、訪問リハビリテーション、地域包括支援センターのスタッフ(以下、生活期スタッフ)が怪訝な顔をして帰られていくことです(かかりつけ医が参加することは稀でしたが…)。

その理由を考えた結果、ある結論にたどり着きましたので、専従医の視点から考えた退院支援に必要な能力について書きたいと思います。 ただしあくまでも個人的見解ですのでご了承ください。


まずいきなり結論から。

退院支援がうまくいかない最大の原因は病院の医師、看護師、パラメディカル(以下、病院スタッフ)の言語化能力(表現力、語彙力など)だと考えます。ただし裏を返せば患者さん、ご家族、退院支援にかかわる生活期スタッフに生活期の姿をイメージさせるだけの言語化能力があれば退院支援はうまくいくはずです。

例えばカンファレンスの場面で病院スタッフから生活期スタッフに向けて

  • Aさんは基礎疾患にDMがあるので低血糖に注意が必要です。
  • BさんはAfがあるので抗凝固剤を飲んでいます。出血に注意が必要です。
  • CさんはTKA術後の方で、ROMが屈曲~度で、伸展~度、MMTで5まで回復しました。脚長差と足部内反があるので患側に7㎜のラテラル・ウエッジを入れています。
  • DさんはTHAの方で、股関節の屈曲・内転・内旋の複合姿位が禁忌です。
  • Eさんは脳出血の方で、B.R.S.(あるいはブルンストロ-ム・ステージ)が上肢Ⅱ、手指Ⅱ、下肢Ⅳで、歩行訓練にはAFOを装着しています。
  • Fさんは失語症と高次脳機能障害があって、コミュニケーションをとるのが難しいです。WABでは~失語症のタイプで、BADSでは~、BITでは~といった結果でした。

このような情報提供があったとします。

どうでしょう、情報提供を受ける側からすると随分不親切に感じませんか?情報提供というよりは一方的な報告で専門用語や略語も多すぎます。このようなカンファレンスの経験がある生活期スタッフは多いのではないでしょうか。そして生活期スタッフが理解できない情報だとすれば、患者さん、ご家族はなおのこと理解できていないだろうことも容易に想像できるかと思います。

もちろん生活期スタッフも病気や障害に関する知識を持ち合わせているはずですから、患者さんと家族を除けば、DM=糖尿病、Af=心房細動などの病名であれば共通言語になっていると思います。またTKA=全人工膝関節置換術、THA=全人工股関節置換術についても共通言語として情報共有可能な生活期スタッフも少なくないと思います。

しかしながらB.R.S.(ブルンストロ-ム・ステージ)が麻痺の回復レベルを上肢・手指・下肢に分類し、それぞれを麻痺の回復段階に合わせて6段階で表したものだと理解できる方はほとんどいないと思います。また失語症や高次脳機能障害にしても、分類、検査名(ここではWAB、BADS 、BITなどを指す)、さらには検査結果の解釈まで理解されている方は多くないと思います。

でも安心してください。リハビリテーション科医とセラピスト以外はまず理解できていません。おそらくカンファレンスに参加している専従医もよほどリハビリテーションに理解と関心があって勉強されていない限りはまずわかっていないはずです。(これはこれで専従医の闇なのですが…)。

ただ少し言い訳させてもらえるのなら、病院スタッフにも一応理由があるのです。もちろんカンファレンスは重要だと理解しているのですが、検査、急変、他患者の訓練時間が迫っている、申し送りetc.で長く時間を割けないなど。そのため言いたいことを(一方的だとしても)伝えたら、ヨシ終わり!みたいなところが確かにあって…(カンファレンス中、非言語的な圧力=無言の早く終わらせようという圧力を感じた方も多いのではないでしょうか。くれぐれも退院支援の重要性は理解しています。とは言え、苦しい言い訳ごめんなさい。)。


でも理由をつけたとしても、こんな一方通行のカンファレンスばかり開催していては、ご家族や生活期スタッフに失礼です。

リハビリテーションにかかわる職種が専門用語や略語で話をする、それは確かに病院内では共通言語化していることになりますが、生活期スタッフにも理解できるように言語化しなければ本当の意味での共通言語として情報共有できたことにはなりませんので。


では解決法は?

最大の原因は病院スタッフの言語化能力にあるといいましたが、解決法はずばり退院支援にかかわる全スタッフが言語化能力を高めることです。

おそらくご家族と生活期スタッフが一番知りたいのは、病院でのADL能力と活動度、生活期においてさらなるADL能力の向上を目指すための留意点ではないかと思います。

では仮に病院スタッフにできるだけ専門用語を用いずに情報伝達ができる言語化能力があれば?専門用語を用いるにしても参加者に分かりやすい表現に言語化する能力があれば?あるいはわかりやすく言語化したつもりでも、その表現では伝わらなかった場合、さらにわかりやすいように再言語化する能力があれば?

また情報提供側である病院スタッフに言語化能力が求められるのは当然ですが、生活期スタッフも言語化、再言語化された情報を今度は自分の言葉に言語化する能力があれば理解がより一層深まると思いませんか。ぜひ生活期スタッフにも言語化を意識していただければと思います。

言語化を意識した結果、生活期スタッフが患者さん、ご家族の生活がイメージでき、安心して住み慣れた環境で生活する援助が可能となれば、これ以上のうれしいことはありませんよね。

そこで生活期スタッフにはぜひカンファレンスでは遠慮なく、「もっとわかりやすく話をして欲しい」と意思表示することをお願いしたいと思います。意思表示により病院スタッフにうまく言語化できていなかったという気付きを与えることができます。また気付きを得られることで再言語化に意識が働くようになるはずです。そして再言語化された情報を生活期スタッフがイメージ化できてこそ、真の情報共有と言えるのではないでしょうか。

前掲の例文も

  • Aさんは基礎疾患に2型糖尿病があり、経口血糖降下薬と1600Kcalの食餌療法、リハビリテーションによる運動療法を行っています。口喝や目のかすみ、冷や汗などの低血糖症状に注意が必要です。
  • Bさんは心房細動があるので抗凝固剤を飲んでいます。出血傾向にありますので出血しやすいこと、血が止まりにくいことを知っておいてください。机に手をぶつけた、ベッドに膝をぶつけた程度の軽い衝撃でも内出血を起こすことがありますので気を付けてください。
  • Cさんは人工膝関節全置換術後の方で、膝の関節可動域が屈曲~度で、伸展~度、筋力は徒手筋力評価で5まで回復したので、歩行に耐えうるだけの十分な筋力があります。患側の靴に外側に向かって7㎜高くした中敷きを入れることで脚長差とつま先の引っ掛かりの軽減を図っています。またT字杖を使用しています。
  • Dさんは全人工股関節置換術後の方で、股関節の屈曲・内転・内旋の複合姿位が禁忌です。具体的には椅子に腰かけるときや床のものを拾おうとかがみこむ動作は脱臼しやすいので注意が必要です。
  • Eさんは脳出血の方で、B.R.S.(ブルンストロ-ム・ステージ)は上肢Ⅲ、手指Ⅱ、下肢Ⅳです。具体的には肩、肘、指の筋肉がかろうじて収縮できる状態で、実用的な動きの再獲得は困難でした。下腿と足部を支える短下肢装具を装着しT字杖を用いることで見守りでの歩行耐久性が30mあります。時にふらつきやつま先の引っ掛かりがあるのでとっさの際に手を出せるように見守りを継続することが望ましいです。歩行耐久性が上がれば家の周囲などの屋外歩行も目指せそうです。
  • Fさんは運動性失語症がありコミュニケーションをとるのが難しいです。ただし運動性失語症なので、聴く力は保たれており、聞き手が言いたいことを推測してうまく誘導できれば発語可能な場面もあります。できるだけおしゃべりをして言葉を引き出すようにしてください。全般性注意障害や麻痺側に注意の行きにくい半側視空間失認などの高次脳機能障害に伴う行動障害もありますが、声かけで修正可能な場面が増えており、更衣動作や整容動作の介助量軽減が見られています。引き続き麻痺側からの声掛けによる刺激入力を行って、動作の定着を図ってください。

できるだけ共通言語になるようにより分かりやすく再言語化したつもりです。

最初の例文と比べるとくどい言い回しに聞こえるかもしれませんが、量、質ともに十分な情報が得られたのではないでしょうか?

私がカンファレンスに参加するときやインフォームドコンセントを求めるときに強く意識しているのは、できるだけわかりやすい=病状や障害、生活がイメージしやすい表現(言い回し)で言語化することと、言語化と再言語化を繰り返しながら「刷り込むように」お話することです。こうすることによって患者さんとご家族、あるいはスタッフの意識に強く働きかけることができると考えるからです。しかしながら私には上記の再言語化した文章でも、まだご家族や生活期スタッフに理解できない表現や言葉があるように思えます。そのためもっと強く言語化と再言語化を意識する必要性を感じています。

退院を一番不安に感じていらっしゃるのはご家族ですし、言語化能力の不足によりご家族が理解できないままカンファレンスが終わればその不安はさらに大きいものとなるでしょう。生活期スタッフの中には内容に不満があっても、空気を読んでわかった顔をされる方もいらっしゃるかと思います。だけどどこか怪訝な顔をされているので、情報共有がうまくいかなかったことを実は病院スタッフも気が付いているはずです。気が付いていないふりをしているだけなのです。

そんなカンファレンスを続けていれば、「動けない、もう一回入院させて(泣)」。カンファレンスしたのにかかりつけ医やケアマネージャーは何してるんだ(怒)?。でも、かかりつけ医やケアマネージャーからすれば病院スタッフの言うことが理解できないから患者さんと家族とうまくいかないのも当然です(怒怒)!といった帰結は明らかです。

患者さんとご家族が安心して住み慣れた地域で生活していくための退院支援なのですから、かかわる全員(特にご家族)が理解できるように言語化するのは当然なことですし、情報共有できていないにもかかわらず共有できたと装うのも大きな問題です。こういったことが積み重なれば、最終的に患者さんとご家族が安心して生活を送ることができなくなります。

ただ言語化のスキルも一朝一夕に習得できるものではありません。ぜひカンファレンスだけと言わず、立ち話、家族との会話、電話など、日常のあらゆる場面において、言語化を意識した情報共有こころがけてみてはどうでしょう。きっとコミュニケーションがより円滑になり、情報共有が捗ると思います。

長々と書きましたが、「退院支援について」必要なものは退院支援にかかわるスタッフ全員の「言語化能力」にあると考えます。少しでも興味を持っていただけましたら、ぜひ今日から実践していただけたらと思います。


最後に宣伝をさせていただきます。

この度、多くの方とのご縁をいただき、本年11月1日に医療法人𠮷田クリニック みんなの在宅クリニック広島西 院長に就任いたしました。

本コラムで取り上げた「退院支援」における言語化の問題を解消するにはリハビリテーション専門医が急性期病院、回復期リハビリテーション病棟と生活期を繋ぐ架け橋になるべきであると考えたからにほかなりません。

リハビリテーション専門医が一番得意とするのは障害を通じて生活を診ることです。

その専門性を活かし、急性期病院、回復期リハビリテーション病棟と生活期を繋ぐ言語化の懸け橋(通訳)として、きっと皆様のお役に立てるかと考えます。

また全身管理につきましては内科や外科の専門医には劣るかも知れませんが、20年の回復期リハビリテーション病棟勤務を通じて経験して参りました。

ぜひ、みんなの在宅クリニック広島西をよろしくお願いいたします。 ご拝読ありがとうございました。