姫路中央病院

地域連携室長兼看護部次長 中藤恵美

前回は神経難病についてお話しいたしましたが、今回は認知症ケアについてお話させていただきます。

認知症について

認知症と診断されると「わからなくなる」「自分の思いを伝えられなくなる」ように思われがちですが、そうではありません。

認知症は大きく4つに分類されます。

アルツハイマー型認知症であれば、初期段階は理解力の低下はまだ進んでおらず、中期段階では理解力の低下や注意障害が出てきます。さらに進んでくると言葉の意味が理解できなくなります。

レビー小体型認知症であれば症状に変動があるため、状態の良い時には理解すること、判断することは可能な状態があります。

前頭側頭型認知症であれば中期までは物事を理解することに支障はありませんが、自己抑制の弱まりがあるため配慮が必要になります。

このようにそれぞれの疾患の特徴を踏まえ、対応を変えていくことが重要です。

問題になると言われる一つにBPSD(=行動・心理症状)があります。代表的な症状として挙げると、外出時の道迷い・突然怒り出す・不潔行為・幻覚・妄想・不眠などがあります。BPSDは経過中に必ず現れたり、認知症が悪くなるから出てくる、というものではありません。なんらかの原因「環境、心理、社会的」な要因や、不適切なケア、本人の思いとは違った支援によって、起こりうると考えられています。また起こった時には対処方法を知っていれば難しい対応ではないかもしれません。


物忘れ外来のイメージ

先日、私の父は物忘れ外来を受診しました。 受診を了解してもらうまでにずいぶん時間がかかりました。日常生活で何度も同じことを伝えなければいけなかったり、伝えたことが出来ていなかったり…と忘れることが多くなっていました。

『しっかり者で優しい父』が私のイメージだったので「これまで通りしっかりしてほしい。」という思いが一番に出てきます。

言ってはいけないことはわかっているのに「何言ってるの?しっかりして」「さっき、言ったこと覚えてないの?」と、あるまじき対応をとってしまいました。

関わる側として相手を尊重しながら…と理解はしていますが、なかなか難しいです。

父は、これまでのように自由にならない身体の動きのせいで日常生活に不具合が出ているようでした。自分自身で老いを感じ、楽しみを見つけ出せなくなってしまっているのだろうと思います。人の手を借りての生活を望んでいるのか、いないのか、確かめてはいませんが生き辛くなっているようで「死にたい」と口に出すことが多くなっています。

たくさんの検査を受け、MCI=軽度認知障害の診断を受けました。

認知症と診断されたご本人は、実際にはいろいろなことを考え思い巡らせ、自分に起こっている変化に戸惑いながら日常に身を任せておられるのではないかと思います。

本人のことは本人にしかわからず、本人の気持ちをないがしろにしてはいけません。じっくりと、ゆっくりと話をしてみましょう。

異常とされる様々な生活行動が、実は、患者さんにとっては全て『意味ある行動』だとすると、見え方が変わってくる、ことをみんなが念頭におき対応することが大切です。

BPSDが出ることによって患者さん本人や、家族のQOLが低下したり、入院や施設への入所が早まったり、医療費や介護にかかる費用の増加となったりします。介護者のストレス、また認知症そのものの進行が早くなるとも言われています。

家族や介護者との関係を良好に保ち、穏やかに暮らすためには、認知症の患者さん本人と認知症になる前からの良好な信頼関係ができていることが大切です。

認知症の患者さんは、記憶は忘れても感情は残ります。「この人は信頼できる」と思っている人の言うことは聞いてくれることが多いです。家族が認知症の対応にあまり熱心でなくても、うまくいっているケースはこのパターンが多いようです。

また、介護する人は、細かいことは気にしない、おおらかな性格だと関係がうまくいっていることが多いです。

適度に手を抜けること、も介護する人には大事です。生活の全部が介護になってしまうとどんな人でもストレスが溜まり、良い介護ができなくなります。使えるサービスを利用し、介護者の時間を確保することも大事です。

私たちは、家族がどの程度、認知症の理解ができているか、確認し、お伝えすること、また、入院中の状況を伝え、入院中にどんな工夫をすれば落ち着いたか、などの情報を伝えていきたいと思っています。それは家族だけではなく、在宅で関わる多職種の皆さんとも情報共有をする必要があります。

サービス利用を受け入れたくないと思われる患者さま、ご家族様がおられます。理由はいろいろあると思われますが、そのひとつに、今の生活に困っていない、といわれることがあります。でも近くで関わっている地域の方からは支援の必要性を訴える声があがることがあります。

最近では申請するご本人たちが困っていなければ、介護保険の申請に繋がらないことがあります。地域全体で声掛け、関わりができるような仕組み作りが必要です。地域の中での本人の居場所と役割を見つけていくことで、家族のストレスも軽減するのではないかと思われます。


運転のイメージ

車の運転についても難しい問題があります。

理想は『本人抜きで話を進めない、本人の声を聴き繋がって活かす』

運転をやめさせるではなくて、本人が安心安全にこれまでと同様に暮らしていけるようにするにはどこで折り合いをつければよいのか、悩むことがあります。

本人が運転する目的は「仕事に行くこと」「買い物に行くこと」「墓参りに行くこと」「仲間で囲碁をすること」運転をやめることは、本人の活躍できる楽しい場所から遠ざけてしまうことになります。

考えなければいけないことは、本人が活躍できるシナリオを作り、協力者を得ること。どんな地域でも生きづらくならないよう、楽しい生活ができる、そんな世の中になればいいのに…と思います。

当院では看護師もMSWも、たくさんの時間をとって、ご本人・ご家族と話を進めていきます。

MSWは、「本人と家族の想いをすり合わせて、落としどころはどこか、どのタイミングで話をきりだしていくか、むっちゃ考えます」と言っていました。まず自分で考えて行動する力、本当に勉強になっています。

私たち病院スタッフは退院を目標とするのではなく、「その人らしい生き方を支援する」ことで、悪くなって再入院とならないような指導であったり、傾聴や面談、指導を何度も繰り返し、多職種で情報共有をしながら、知恵を出しながら行うことが重要だと思っています。

地域連携室に異動になって5年めとなりました。 ここは、これまでの私の看護師経験の中で一番 患者さんの生活、人生に関わる時間の大きい場所です。

正解はひとつではないから、いろんな職種が、いろんな方面から意見を出し合い、ともに組み立てていくことが大事なのだと思います。

目の前の人が幸せになるように、周りの人に幸せや楽しさが伝播するよう、これからもすすんでいきたいと思っています。