フレイルとは?

超高齢化社会が進む中、高齢者の健康は大きな社会問題になっています。
そして、「フレイル」という概念も徐々に認知されてきています。
フレイルとは健康と要介護の中間の状態を意味します。つまり、加齢により心と体の活力が衰えた状態、虚弱状態を意味する言葉(Frailty)です。高齢者のフレイルは生活の質を落とすだけでなく、さまざまな合併症を引き起こす危険があり、要介護になるリスクが高いと言えます。

しかし、フレイルは早期に治療や予防を行えば、元の状態に戻ることが可能です。
これは健康寿命を長く保ち、要介護へのリスクを下げるための大切な対策です。

フレイルの原因

フレイルになる原因は、筋力低下などの身体機能の衰えのみならず、心理的要素および社会的要素の三つの要素によって構成されています。

身体的要素

階段を登る高齢者の様子

高齢者は筋力低下により転倒しやすくなったり、歩く速度が遅くなったりします。筋力が衰えた状態の「サルコペニア」や、運動機能が障害をきたした状態のロコモティブシンドロームを経て、生活機能全体が衰弱するフレイルへと進みます。
そして高齢者の場合は、ここから要介護状態に至るのが典型的な流れと言われています。また、嚥下・摂食機能の低下は低栄養状態をも生み出します。


心理的要素

落ち込む高齢者の様子

認知機能の低下やうつなどの精神的・心理的要素によって、判断力が低下し生活への意欲が減少します。


社会的要素

寂しい高齢者の様子

一人暮らしによる孤食や孤立、また経済的困窮などによって閉じこもりがちとなり、社会との交流が減少します。


これら3つの要素は相互に影響しあっており、フレイルの進行を予防するためには総合的に対応する必要があります。

フレイルのサイン

散歩する高齢者の様子

フレイルの状態になると、普段ならすぐに治る風邪も重症化して肺炎などになる可能性が高くなります。フレイルかどうか簡単にチェックしてみましょう。


体重の減少 体重を落とそうとしていないのに、年間4~5kg減少する
疲労感 特に何もしていないのに、疲れたと感じる
歩行スピードの低下 横断歩道を青信号の間に渡りきることができない
握力の低下 利き手の握力で、男性26kg未満、女性18kg未満
運動量の低下 習慣的な体操や軽い運動、定期的な運動をしなくなった

以上の項目のうち3つ以上が当てはまればフレイル、2つ当てはまればその前段階のプレ・フレイルと判断されます。早めの予防対策を実施しましょう。

フレイルの予防

フレイルを予防するには、健康長寿のための3つの重要な柱があります。

栄養

タンパク質豊富な食材

65歳を過ぎたら、筋肉の元となるたんぱく質をしっかりとることが大事です。筋肉量を維持するために、肉、魚、大豆製品などたんぱく質を含む食品を、高齢者は若い世代以上に積極的に摂取しフレイル予防に努めましょう。
また、骨を強くする牛乳や乳製品も大事です。バランスの良い食事をよく噛むことで、口腔機能の維持にもなります。



運動

何もしなければ筋肉は衰え、身体機能は低下してしまいます。筋力の低下で支えきれなくなったため、膝や腰に痛みが生じたり、転倒や骨折のリスクが高くなったります。

ハイキングをする様子

フレイル予防には有酸素運動が有効とされており、特に高齢者の場合はウォーキングが取り入れやすくおすすめです。1日に最低でも5,000歩以上歩くようにすると、筋力の低下予防となります。



健康な人であればジムなどに通ってトレーナーの指導を受けたり、地域の体操教室などに通ったりするのも、筋力維持だけではなく社会への参加という側面から見ても、効果的だと言えます。

社会活動への参加

笑顔の高齢者

最近の研究では社会性を失うことが、フレイルの最初の入口になりやすいと言われています。「社会活動への参加」の減少が、孤立を招くことになります。
高齢になると物事に積極的に取り組む意欲が低下し、社会との交流が億劫になって閉じこもりがちになり、人と話す機会が減り、うつ症状が出てしまう事もあります。



栄養や運動に気を配っていても、社会とのつながりが減ってしまうと、心身共に健康的な生活の維持が困難になってしまいます。地域で開催されるさまざまな介護予防の集まりや、趣味の会、ボランティアなどに積極的に参加し、精神的健康を維持することがフレイル対策において大変重要なポイントです。

フレイルの治療

ではフレイルになっていたら、どう対処していけばよいのでしょうか。

持病のコントロール

医師と話す高齢者

糖尿病や高血圧などの生活習慣病、心臓病、腎臓病、呼吸器疾患、整形外科的疾患(骨粗鬆症やひざや腰の痛みなど)がある時は、まず持病のコントロールが必要です。持病のコントロールがされていないと、高齢者は身体を動かす意欲が低下し、運動量の減少により身体機能が低下してしまうこともあります。医師などに相談して持病をうまくコントロールをし、安全な形で運動量を維持しましょう。



感染症予防

高齢者がフレイルになると免疫力の低下がおき、肺炎やインフルエンザ、新型コロナウィルスなどに感染しやすくなるといわれています。感染症をきっかけに入院し、重症化によってそのまま寝たきりになってしまう場合もあります。

歯を磨く様子

日頃からバランスの良い食事や適度の運動により、免疫力を高める体つくりをしておくことが大切です。また、手洗い・うがいなどの徹底、ワクチン接種、そして誤嚥性肺炎を防ぐために、口腔ケアはしっかりと行いましょう。



運動療法と栄養療法

ストレッチをする様子

高齢者に対し適切な運動療法を行うと、サルコペニア状態であっても、比較的短期間で筋力を取り戻しやすいといわれています。
ただし、サルコペニア状態で無理な運動をすると、転倒や骨折をおこす危険があります。運動は個人に合ったものからムリなく始めましょう。ベッドの上で足を動かす運動や、椅子を使って座る・立つを繰り返す運動なども、筋力向上につながります。
日常生活に少しずつ運動を取り入れたり、歩く距離を少しずつのばしたり、毎日続けられることを少しずつ始めましょう。



また、運動療法は栄養療法とセットで行う必要があります。低栄養状態でいくら運動をしても、それは筋肉にならないどころか、かえって低栄養状態を助長してしまいます。筋肉を付けるために必要なたんぱく質や、骨を丈夫にするカルシウムなどを積極的に摂り、バランスの良い食事をしましょう。

社会とのつながりがフレイル対策の第一歩

栄養や運動という身体機能の健康維持だけでは、フレイル予防とはなりません。
社会参加が減少すると心身の様々な側面が、ドミノ倒しのようにフレイルが進行する傾向があります。
また社会参加によって、運動量の増加、精神・心理状態の安定、人と会食をすることによる栄養状態・口腔機能の向上など、さまざまな健康分野にも大きな影響を与えます。積極的に社会参加を取り入れ、ムリなく楽しく暮らすよう心がけて健康長寿を維持しましょう。