認知症は誰もが掛かりうる病気です。
ですが、いざ自分の家族が認知症になってしまった場合、介護者となる家族は、大きな不安と負担に立ち向かわねばなりません。本人は言うまでもなく、家族にとっても認知症は切実な問題です。
認知症を正しく理解することは、予防や初期段階の対応に役立ちます。
まず誤解や偏見なく理解すること、これが認知症の家族を受け入れていくための、基本となります。
認知症の主な症状
認知症の予防、対応に欠かせないのが、早期発見です。認知症は通常、初期症状を経て中核症状・周辺症状へと進行します。早期発見につながるのは、初期症状にいち早く気付くことができる、家族の存在です。高齢者の家族がおられる方は、一般的な認知症の症状を知っておかれる方が良いでしょう。
初期症状
初期症状として現れるのは、「同じことを繰り返し言う」「以前はできていたことができなくなる」「物忘れや探し物の回数が増える」などが挙げられます。
自分の年齢や、今日は何年の何月何日か、などが分からなくなった様子が見られたら、専門医の診断を速やかに受け、症状を悪化させないよう対処しましょう。
中核症状
中核症状は、認知症の中核になるとされている症状で、認知機能の低下から引き起こされる症状です。「記憶障害」「見当識障害」「失認・失行・失語」「実行機能障害・判断力障害」があります。
程度の差こそあれ、認知症であれば必ず起こりうる症状で、進行を遅らせることは出来ても、完全に食い止めることは出来ません。
周辺症状
周辺症状とは、認知機能障害を持つ人が、周囲の環境に対応しようとしたときに、二次的に生じるとされる症状です。具体的には「徘徊」「抑うつ」「失禁・弄便」「幻覚」「妄想」「睡眠障害」「暴言・暴力」などがあります。
もし家族が認知症になってしまったら
あなたの家族が認知症になってしまったら、誰が一番苦しむのでしょうか。それはおそらくご本人ではないでしょうか。初期症状にいち早く気付き、自分が認知症になってしまったことへの不安、憤り、哀しみにもっとも苦しんでいるのは、ご本人なのです。
認知症を正しく病気として理解し、さりげなく自然なサポートで支えていけば、認知症の進行を抑え、自分で出来ることも増えていくでしょう。
認知症患者の家族はどのようにサポートしていくのか
まず大事なことは、誰も否定しないようにすることです。認知症という病気になってしまった本人も、先の見えない介護に心身ともに疲労している家族も、誰をも否定すべきではありません。まず、現実を受け入れる、受け入れられるようにすることを考えましょう。
認知症になってしまった本人は、出来ないことが徐々に増えていくことで、次第に自信を失っていきます。記憶というのは一人の人間の人生を形成するものですから、それが失われていくことは、自分が誰であるのかが分からなくなっていく、そんな恐怖と不安を味わうことになるのです。
何か問題行動があっても、頭から否定したり、間違いをこまかく指摘したりするのではなく、本人の感じている不安に寄り添うこと、それが家族の行える支援なのです。そうすれば、本人はもとより、家族みんなの心の負担が軽減され、穏やかに過ごせるでしょう。
介護する家族の心理ステップ
家族が認知症と診断されると、家族はさまざまに悩み苦しみ、やがて容認への道を歩んでいきます。
・戸惑い・否定
家族が認知症と診断されると、「まさか、そんなはずは」と戸惑い、症状が現れているのに「何かの間違いだ」といった、否定の感情が起きたりします。頭の中では理解していても、それがうまくかみ合わない段階と言えるでしょう。
・混乱・憤り・拒絶
やがて症状が進み、認知症を否定できない段階になると、「何故なのか」「どうすればいいのか」といった混乱が生じ、その混乱の中で、否応なく追われる介護に憤りが生まれます。やり場のない怒りの感情は、やがて孤立感、絶望感を深め、認知症本人や、援助者への拒絶となって現れたりします。
・割り切り・受容
やがて認知症に対する諦めが生まれ、今後どう認知症とうまく付き合っていくべきか、認知症という病気そのものと、その病気になった本人と、共に生きることを徐々に肯定し、受容できる時期となります。
決してスムーズなステップでありません。ですが、自分一人で抱え込まない、人やサービスに頼るべきところは頼る、そう、肩の力を抜くことが大事です。
介護疲れをしないために
認知症介護は先の長い道です。少しでも介護者の心の負担を減らすこと、介護する人へのケアはとても大切なことです。
・がんばらない
必要以上に介護者が頑張ってしまい、疲労で倒れたり、心を病んでしまったりしては、意味がありません。がんばらなくても良いのです。介護者が疲れた時には「疲れた」と言える環境を作ることを、周囲も心がけましょう。
・一人で抱え込まない
長引く介護、ひとりですべてを負担するのは、やめましょう。介護保険制度の利用はむろんのこと、各種の利用できるサービスは、どんどん活用しましょう。
・弱音を吐く
介護をしていると、社会的つながりが薄れていきます。弱音を吐き、泣き言を言える場所を持つようにすれば、孤立感は和らぎます。ケアマネージャーさんや、認知症の人の家族会といった、認知症に対し理解があり、介護の経験のある方たちに相談すると、心の負担が軽くなります。
・終わりを考える
認知症は進行していくものです。何時かはすべてに終わりが来ます。その終わりを迎えるために、「今」を優しく過ごす、そう考えましょう。本人はもとより、介護する家族にとっても、大事なのは「今」なのです。
認知症になってしまった本人にとって、家族はかけがえのない存在です。認知症になったら、「何もできなくなる」ということではありません。また、「何も理解できない」ということでもないのです。病気への正しい理解と、本人への愛情を持って対応し、本人が今できること、今感じていることを、大切にしてあげましょう。今の自分を肯定してくれる家族の存在が、心の安定につながり、問題行動が減少することにもつながるでしょう。お互いが穏やかな気持ちで日々を過ごすために、良い関係を保てるようにすることが大切です。
ただし、長期化すればするほど、家族の負担は大きくなります。専門家の相談窓口や、介護サービスをどんどん活用して、無理のない介護、がんばらない介護を心がけましょう。