コロナ禍で注目される「ステイ・ウィズ・コミュニティ」の考え方

STAY HOMEイメージ

新型コロナウイルスの感染拡大で、「ステイ・ホーム」が声高に叫ばれ、コロナ感染拡大当初から行政もこれを呼び掛けていました。新型コロナウイルスの感染防止でもっとも簡単で有効な方法は、自宅に閉じこもり人との接触を避ける「ステイ・ホーム」です。

しかし、高齢者にとっては外部と交流を遮断してしまうと新たなリスクも存在してきます。
そこで注目されているのが 「ステイ・ウィズ・コミュニティ」という考え方です。


「ステイ・ウィズ・コミュニティ」とは、不特定多数との接触を避け、交流範囲を家族や親戚、特定の友人、職場の同僚といった人たちに限定し、狭い範囲のコミュニケーションを大切にするという考え方です。


高齢者は感染すると重症化しやすいため、できるだけ外出を避けるのが賢明です。
しかし、一人暮らしの高齢者が「ステイ・ホーム」を実践すると、周囲とのコミュニケーションが途絶えた結果、認知機能が低下して認知症が発症したり、生きがいを見失ったりする新たなリスクが発生します。最悪の場合、孤独死や自殺の可能性も出てきます。

このような事態を回避しながら、新型コロナウイルスの感染を防止するためには、「ステイ・ホーム」ではなく、「ステイ・ウィズ・コミュニティ」の考え方が重要になってきます。

社会参加活動や仲間づくりで孤立を解消

一人暮らしの高齢者が身体的・精神的な健康を保つためには、社会との交流を持つことが大切です。
仕事を持つ、ボランティアやサークルに参加する、町内会に出席するなど、いくつかの方法があります。

現在、高齢者の社会参加活動はどのような状況にあるのでしょうか。
2020年版高齢社会白書によると、60~69歳の約7割、70歳以上の5割弱が、働いているか、またはボランティア活動や地域社会活動を行っています。

具体的な活動内容を見ると、下記の通りとなります。
・自治会、町内会などの自治組織の活動 21.8%
・趣味やスポーツを通じたボランティア・社会奉仕などの活動 16.9%

想いに耽る高齢者の様子

その一方で、一人暮らしをしている男性の高齢者(65歳以上)の場合、近所の人との付き合いは「挨拶をする程度」が半数以上を占め、「付き合いはほとんどない」も多い傾向にあります。

こうしたデータからもわかるように新型コロナウイルスの有無に関わらず、高齢者は積極的に行動しない限り徐々に社会から孤立していく傾向があります。

社会的な活動をしていない理由

「ステイ・ウィズ・コミュニティ」を提供する高齢者向け住まい

一方、高齢者向け住まいの入居者は、どのような生活を送っているのでしょうか。その様子を垣間見ることができる研究報告があります。

高齢者のケアをする様子

2017年度の厚生労働省補助金事業で実施した「高齢者向け住まいにおける運営実態の多様化に関する実態調査研究」では、有料老人ホーム(介護付き・住宅型)やサービス付き高齢者向け住宅に焦点を当て、それぞれの運用状況を調査しています。その結果を見ると、各施設で力を入れて取り組んでいる割合が高かったのが、「水分摂取の管理」「栄養・食事の管理」「施設内のイベントの開催」などでした。

一方、外部の事業者と連携した取り組みで、特に力を入れているサービスについては、施設によって違いが見られます。介護付き有料老人ホームでは、歩行訓練や認知症予防などの「予防トレーニング」に注力。これに対し、サービス付き高齢者向け住宅では、入居者企画イベントやサークルなどの「主体的機会づくり」、減薬や経口摂取などの「ケアからの自立」に関する取り組みに注力する傾向が顕著です。

入居者と地域との関わりについては、介護付き有料老人ホーム、住宅型有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅ともに、50%超が地域ケア会議や多職種連携会議などに参加したことがあると回答しています。

この調査からも、有料老人ホームとサービス付き高齢者向け住宅はともに、コミュニケーションを限定した「ステイ・ウィズ・コミュニティ」の考え方を重視した取り組みを実践している様子がうかがわれます。

外部事業者との連携有無別にみた力を入れている取り組み

人との交流が高齢者の認知症発症リスクを低下

高齢者の認知症患者の増加は社会問題となっていますが、現時点ではアルツハイマー病などの根治療法はありません。そこで重視されるのが、発症の予防です。そのためには、高齢者が参加できるコミュニティの場が必要となります。

コミュニケーション促進による認知症予防の効果は、これまでの研究で確認されています。国立研究開発法人国立長寿医療研究センターがまとめた2017年度研究報告「コミュニケーションで認知症は予防できるのか:ビッグデータを活用した解析研究」では、次のように報告しています。

高齢者のグループ活動の様子

研究グループは約9年間の追跡データから、認知症を予防する上で「配偶者」「家族とのサポート授受」「友人との交流」「グループ活動参加」「就労」が重要な要因であることを特定しました。これらがある人はない人と比べて、発症リスクが11~17%低下。特に、親密な相手が多様である高齢者では、4年後の認知機能が高くなる可能性が示唆されました。

この研究結果は、高齢者が認知症を予防する上で、家族や友人、グループ活動などを通じた「ステイ・ウィズ・コミュニティ」が重要な役割を果たすことを示していると言えます。

コロナ禍では狭いコミュニティで生活を楽しもう!

配偶者や家族と同居している高齢者は自宅で過ごす時間が増えても、会話の相手やケアをしてくれる人がいるため、深刻な問題は生じにくいかもしれません。

しかし、一人暮らしの高齢者にとって、コロナ禍での「ステイ・ホーム」は社会との断絶を意味します。認知症の発症リスクが高まり、自殺や孤独死につながる恐れも出てきます。

一方、サービス付き高齢者住宅をはじめとする高齢者向け住宅では、入居者という限られたコミュニティの中でイベントやサークルを楽しむことができます。これによって「 ステイ・ウィズ・コミュニティ 」を実施し、プライバシーを確保しながら、サークルやイベントを通じて仲間をつくることが可能です。地域との交流もあり、特定のグループとのつながりを持つこともできます。

新型コロナウイルスの流行は長引くと予想されています。「ステイ・ウィズ・コミュニティ」を提供するサービス付き高齢者向け住宅で、限定された仲間と交流しながら、安全に暮らすことは、高齢者にとってコロナ禍を生きる最良の選択肢となるでしょう。