先般、アルツハイマー病の治療薬としてアメリカの製薬会社バイオジェンと日本のエーザイが共同で開発した新薬について、アメリカのFDA=食品医薬品局は原因と考えられる脳内の異常なタンパク質を減少させる効果を示したとして治療薬として承認したと発表しました。


アルツハイマー病の治療薬

錠剤イメージ

これまでのアルツハイマー病の治療薬は、残った神経細胞を活性化させるなどして症状の悪化を数年程度、遅らせるもので、病気によって脳の神経細胞が壊れていくこと自体を止めることはできませんでした。
このため病気の進行自体を抑える根本的な治療薬が待ち望まれていました。

しかしながら、今回の承認は深刻な病気の患者に早期に治療を提供するための「迅速承認」という仕組みで行われたため、FDAは追加の臨床試験で検証する必要があるとしていて、この結果、効果が認められない場合には承認を取り消すこともあるとしています。

イラスト

とはいえ、アメリカでアルツハイマー病の患者やその家族の支援を行うアルツハイマー協会のジョアン・パイク博士は、「アデュカヌマブ」の承認について、「アルツハイマー病の治療にとって歴史的なことだ」と述べたうえで、「この薬によって患者と、家族や介護者が、治療の在り方や、何をして過ごしたいかを考える時間が与えられると信じている」と述べました。

また、「アルツハイマー病の診断に人々の関心が高まり、多くの人が早期の診断を受けることで、人生や治療についての話し合いを持つ機会をもたらすだろう」と述べ、承認をきっかけにアルツハイマー病に対する人々の意識が高まることへの期待を示しました。

私も介護者の一人として多くの人々の幸せのために一刻も早い治療薬の開発を願うばかりです。


物盗られ妄想について

さてこのコラムでも認知症のことは何度かとりあげてまいりましたが、今回は物盗られ妄想について取り上げてまいりたいと思います。

ものを探す様子

認知症に伴う行動・心理症状(BPSD)の一つとして、自分のものを誰かに盗まれたと疑うもの盗られ妄想があります。
多くは財布や現金、貯金通帳や宝石類など財産に関連するものを盗まれたと思い込んでしまいます。


物盗られ妄想は、日本では比較的女性に多く見られる症状です。
症状が出るのは、比較的身体が動く初期と言われています。
認知症の妄想の中でも出現頻度が高く、対応に苦慮する症状です。


実例から考える~物盗られ妄想~

実は私の母もその症状が現れ、とても辛い時期がありました。
まずは、自分の預金通帳がなくなったと銀行に相談に行くことからはじまりました。
自分でどこにしまってしまったかわからなくなってしまったのですが、そのうち父が盗ったと私に訴えかけてくるようになりました。
身近で直接介護にかかわる人々が「泥棒」にされやすく、また、普段よい関係を築いている人に対しても起こります。
こうなると「父が盗ったのではない、どこかにしまい忘れただけ」と言ってもまったく聞く耳をもってくれません。
否定すればするほど、もっと悪い方向に進んでいきます。
否定され、訴えを繰り返すたびに、ご本人の中ではその被害感情、怒りや悲しみ、苦しみが何度も生まれます。
その結果、感情が抑制できず混乱を深めたり、被害妄想をより確信して訴えが強くなったり、この人はわかってくれないと判断して様々な人に見境なく訴えるようになります。

メモを書く様子

私の母も「父がだれか知らない人に渡してしまった」と交番に被害届をだすまでに事が大きくなってしまいました。
このような時は、話を否定せずに聞いたり、別の話題に変えてみたり色々試してみましたが、なかなかマニュアル通りにはうまくいかないものです。
そこで「私が全部預かっているから安心しと繰り返し伝えるようにしました。

そうすると、一旦は納得し落ち着きます。
ただ攻撃対象が私に向かってくる可能性もありましたので、これも良策とはいえなかったと思います。
もちろん何度も何度も同じことの繰り返しなのは言うまでもありませんが、それでもまだ私は同居していませんでしたので、まだ我慢ができましたが、父の苦労はいかばかりかと感じました。

思い出イメージ

父と母の二人でできるだけ住み慣れた自宅で過ごしてもらいたいとは思っておりましたが、こうなると自宅での生活はお互いにとってストレスになってしまいます。
プロの介護士が常駐しているサービス付き高齢者向け住宅を選択肢にいれたのはこのような状況からでした。

現在母はサービス付き高齢者向け住宅にて、物盗られ妄想もでるこもなくスタッフの皆様に支えられて生活をしております。

経験から言えることは、介護では正解がなかなかみつかりません。
だからこそ当事者は悩み疲弊していきます。
時には頑張りすぎないことも正解なのかもしれません。