辻経営行政書士事務所
社会福祉士・行政書士・公認内部監査人
辻保司

はじめに

現在、5名の方の成年後見を受任しております。家族がいない方、家族と疎遠な方、施設もしくは病院で生活されている方、生活保護を受けられている方と様々です。
後見の申立理由も様々です。共通の理由は、本人が予期しなかった(あるいは気がつかなかった)精神上の障害が生じているということです。本人の生活を維持することができなくなり、後見が申し立てられているのです。現実は、本人が困っているというよりは、本人の周りの関わりのある方々が困り果てて、最終手段として、後見を必要としたのです。本人は、単独で意思決定することができない状態なのです。
今回のテーマ「意思決定支援」の“意思決定”とは何でしょうか?“自分”の“意思”を“自分”で決定することです(意志ではないのでご注意!)。重要な生活の場面(契約行為など)において、自分自身の意思を自分自身が決定することです。
“成年後見制度”とは何でしょうか?読んで字のごとく、成年を後見する制度です。
本来であれば、意思決定する成年が、何らかの精神上の障害で、自分自身の意思を決定ができなくなります。特に、契約などの重要な生活場面で、意思決定が必要な時、意思決定ができなくなると、その成年本人とその関係者の生活に、支障をきたすことになるのです。それを防ぐために、成年を後見する制度が必要となり、そのルールを法律(民法等)に定めております。その定めに則り、後見が開始されるのです。


成年後見制度

法定後見には、成年後見人、保佐人、補助人の3つの類型があります。法定後見ではなく、任意後見という制度、さらには未成年を対象とする未成年後見人という制度もあります。

成年後見人とは

成年後見人は、本人の判断能力が、欠けているのが通常の状態である時に、審判で、本人を援助する人として選任されます。後見人は、日常生活に関する行為を除く“全ての法律行為”を本人に代わり(代理権)取り消したりすることができます(取消権)。成年後見人には同意権がありません。本人には判断能力がないので、同意する行為が最初からないのです。後見人の義務は、本人の利益のために本人の財産を適切に維持管理して(財産維持管理)、本人が日常生活に困らないよう十分に配慮(身上保護)することです。


保佐人とは *“補佐”でないので注意

保佐人とは、本人の判断能力が、著しく不十分な場合に、審判で、本人を援助する人として選任されます。本人は、特定の事項(金銭の貸借,不動産及び自動車等の売買、自宅の増改築等)を単独ですることできず、保佐人の同意が必要(同意権)となります。もし保佐人同意を得ずに行為をした場合、保佐人や本人によって、その行為を取り消すことができるのです(取消権)。保佐人は、本人の利益を害するものでないか注意しながら、本人がしようとすることに同意(同意権)、本人が既にしてしまったことを取り消す(取消権)ことを通して本人を援助します。保佐人は、特定の法律行為について本人に代わって契約を結ぶ等の行為(代理権)をすることもできるのです。保佐人の権限として代理権
を加える場合は、保佐開始の申立ての他に、別途、「代理権付与の申立て」が必要になります。また,保佐人に代理権を付与するには、本人の同意が必要になるのです。


補助人とは

補助人とは,本人の判断能力が不十分な場合に、審判で、本人を援助する人として補助人が選任されます。補助人は、本人が望む特定の事項についてのみ、保佐人と同様の活動(同意、取消し、代理)をすることで本人を援助するのです。補助開始の審判を申し立てる場合は、必ず、その申立てと一緒に、同意権や代理権の範囲を定める申立て(「同意権付与の申立て」や「代理権付与の申立て」)をします。また、補助人に同意権又は代理権を付与するには、本人の同意が必要となります。


成年後見人は強い権限を持つ

この3つの類型で、成年後見人は、保佐人、補助人に比べて、非常に権限が強くなります。成年後見人の審判申立ては、本人申立て以外は、本人の同意を全く必要としません。


意思決定支援と代行決定

成年後見人は、認知症高齢者や障害者の特性を理解した上で、本人の自己決定権を尊重して、意思支援、もしくは意思決定をしなければなりません(代行決定)。成年後見制度には、意思決定支援重視の制度運用が必要になるのです。“意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン”が令和2年10月に策定され、現在公開されております。


意思決定支援とは

“意思決定支援”とは、何でしょうか?本人の判断能力に課題のある局面において、本人に必要な情報を提供し、本人の意思や考えを引き出すなど、後見人等を含めた本人に関わる支援者らによって行われる、本人が自らの価値観や選好に基づく意思決定をするための活動です。後見人単独の活動ではありません。


代行決定とは

“意思決定支援”の対極の“代行決定”とは、何でしょうか?この決定は、①意思決定支援が尽くされても本人による意思決定や意思確認が困難な場合、または②本人により表明された意思等が本人にとって見過ごすことのできない重大な影響を生ずる可能性が高い場合に、最後の手段として、後見人等が法定代理権に基づき本人に代わって行う意思決定のことです。


成年後見人等のプロセス原則

成年後見人等が行う、意思決定支援及び代行決定には、7つのプロセスの原則があります。

第1全ての人は意思決定能力があることが推定される。
第2本人が自ら意思決定できるよう、実行可能なあらゆる支援を尽くさなければ、代行決定に移ってはならない。
第3一見すると不合理にみえる意思決定でも、それだけで本人に意思決定能力がないと判断してはならない。
第4意思決定支援が尽くされても、どうしても本人の意思決定や意思確認が困難な場合には、代行決定に移行するが、その場合であっても、後見人等は、まずは、明確な根拠に基づき合理的に推定される本人の意思(推定意思)に基づき行動することを基本とする。
第5①本人の意思推定すら困難な場合、又は②本人により表明された意思等が本人にとって見過ごすことのできない重大な影響を生ずる場合には、後見人等は本人の信条・価値観・選好を最大限尊重した、本人にとっての最善の利益に基づく方針を採らなければならない。
第6本人にとっての最善の利益に基づく代行決定は、法的保護の観点から、これ以上意思決定を先延ばしにできず、かつ、他に採ることのできる手段がない場合に限り、必要最小限度の範囲で行われなければならない。
第7一度代行決定が行われた場合であっても、次の意思決定の場面では、第1原則に戻り、意思決定能力の推定から始めなければならない。

意思決定支援の場面

この意思決定支援を行う場面は、本人にとって重大な影響を与えるような法律行為及びそれに付随した事実行為の場面に限られています。日常生活の場面ではないのです。たとえば、


①施設への入所契約など本人の居所に関する重要な決定を行う場合
②自宅の売却、高額な資産の売却等、法的に重要な決定をする場合
③特定の親族に対する贈与・経済的援助を行う場合など、直接的には本人のためとは言い難い支出をする場合 などです。


今後の成年後見人の活動について

成年後見人等の権限の広さや本人の生活に与える影響の大きさから、成年後見人等の意思決定支援のプロセスを踏まえない安易な推定に基づく法定代理権の行使・不行使が戒められ、代行決定の濫用を防止するための慎重な検討が現在、求められているのです。


参 考

最近の後見関連の動向は次の通りです。令和3年成年後見関係事件の概要(最高裁判所事務総局家庭局)から。

■後見人等申立件数の概況(令和3年1月~12月)


成年後見関係事件(後見開始、保佐開始、補助開始及び任意後見監督人 選任事件)の申立件数は合計で39,809件(前年は37,235件)、対前年比約6.9%の増加

  • 後見開始の審判の申立件数は28,052件(前年は26,367件)、対前年比約6.4%の増加。申立総件数の70.4%
  • 保佐開始の審判の申立件数は8,178件(前年は7,530件)、対前年比約8.6%の増加。申立総件数の20.5%
  • 補助開始の審判の申立件数は2,795件(前年は2,600件)、対前年比約7.5%の増加。申立総件数の7.0%
  • 任意後見監督人選任の審判の申立件数は784件(前年は738件)、対前年比約6.2%の増加。申立総件数の2.0%。

■成年後見人等の利用者数の推移(令和3年12月末日時点)

成年後見制度(成年後見・保佐・補助・任意後見)利用者数は合計で239,933人(前年は232,287人)、対前年比約3.3%の増加

  • 成年後見の利用者数は177,244人(前年は174,680人)、対前年比約1.5%の増加、利用者数全体の73.8%
  • 保佐の利用者数は46,200人(前年は42,569人)、対前年比約8.5%の増加、利用者数全体の19.3%
  • 補助の利用者数は13,826人(前年は12,383人)、対前年比約11.7%の増加、利用者数全体の5.8%である。
  • 任意後見の利用者数は2,663人(前年は2,655人)、対前年比約0.3%の増加、利用者数全体の1.1%である。

■成年後見人等と本人との関係の概況

成年後見人等と本人との関係別件数とその内訳の概略は次のとおりです。
配偶者、親、子、兄弟姉妹及びその他親族が成年後見人等に選任されたものが全体の約19.8%(前年は約19.7%)。親族後見は、申立に対して80%が認められています。親族以外が成年後見人等に選任されたものは、全体の約80.2%(前年は 約80.3%)、親族に選任されたものを上回っております。

・関係別件数(合計) 39,571件(前年36,771件)
・親 族 7,852件(前年 7,243件)19.8%
・親 族 以 外 31,719件(前年29,528件)80.2%
うち 弁 護 士 8,207件(前年 7,733件)20.7
司 法 書 士 11,965件(前年11,187件)30.2
社会福祉士 5,753件(前年 5,438件)14.5
社会福祉協議会 1, 415件(前年 1, 455件)3.6
行政書士 1, 301件(前年 1, 059件)3.3
市民後見人 320件(前年 311件) 0.8


■申立人の概況

申立人については、市区町村長が最も多く全体の約23.3%を占め、次いで本人の子(約20.9%)、本人(約20.8%)の順。市区町村長が申し立てたものは9,185件、前年の8,823件(前年全体の約23.9%)に比べ、対前年比約4.1%の増加。


■後見等の開始原因の概況

開始原因としては、認知症が最も多く全体の約63.7%を占め、次いで、知的障害が約9.6%、統合失調症が約9.1%の順。その他に、発達障害、うつ病、双極性障害、アルコール依存症・てんかんによる障害等。


■後見等の申立動機の概況

主な申立ての動機としては、預貯金等の管理・解約が最も多く、次いで、身上保護。


参考サイト
■厚生労働省(意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン等)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000202622.html
■裁判所 *埼玉
https://www.courts.go.jp/saitama/saiban/tetuzuki/kouken/index.html
■後見人等の概況(成年後見関係事件の概要/最高裁判所事務総局家庭局)
https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/siryo/kouken/index.html