高齢化に伴う問題のひとつに、ひとりで食事をする「孤食」があります。
孤食が低栄養やうつ病などの原因となり、結果として高齢者の健康寿命が損なわれるというものです。
今回は高齢者の孤食が引き起こす健康上の問題点と、それを解消するヒントについて解説していきます。


増加する「高齢者の孤食」

一人で食事をする「孤食」の高齢者

令和2年の国勢調査によると、65歳以上の高齢者は日本全国で約3,602万人に上ります。このうち約672万人(5人に1人)は一人暮らしの単独世帯で、この数は年々増える一方です。


単独世帯の多くでは食事もひとりで行っている(孤食)と考えられるため、孤食が高齢者の心身に与えている影響と、その対策に注目が集まっています。


高齢者の単独世帯数

平成17年約387万人
平成22年約479万人
平成27年約593万人
令和2年約672万人

「令和2年国勢調査」より


孤食が高齢者に及ぼす影響

孤食の問題は、単に「ひとりで食事をするのは寂しい」という程度のものではありません。
孤食は「低栄養」や「うつ病」のきっかけや引き金となり、高齢者の健康寿命を縮めてしまうリスクを抱えています。


低栄養

栄養不足による体力低下している高齢者のイメージ

低栄養とは、たんぱく質やエネルギーが慢性的に不足して健康な体の維持が難しくなる状態のことです。主な症状は「体重の減少」「風邪にかかりやすい/治りにくい」「体力が落ちる」といったもので、さらに高齢者の場合は「認知機能の低下」や「骨量の低下」なども深刻な問題とされています。


低栄養の原因は食事量の減少や偏食です。
「孤食」の高齢者は自分以外のために食事を用意することがほとんどありません。このため食事の回数や量、栄養バランスが偏りがちになり、低栄養に陥りやすいのです。

また低栄養になると筋力も衰えるため、「噛む力」や「飲み込む力」が低下して満足に食事を楽しめません。この結果食欲が減り、食事量や食事の回数が減り、ますます低栄養になるという悪循環に陥ってしまいます。

このように、孤食の高齢者にとって低栄養は非常に身近な大問題です。一方で低栄養は要介護状態になる原因や要介護レベルが上がる原因ともなるため、できるだけ早い段階で、何らかの対応が必要となります。


うつ病

うつ病の高齢者のイメージ

東京大学の研究調査によると、「高齢者の孤食」は「欠食、野菜・果物の低摂取頻度、肥満、低体重、うつ、死亡と関連」しています(「高齢者の孤食の社会的背景および孤食が及ぼす健康影響に関する縦断的検討」より)。「一人暮らしで孤食の高齢者」がうつになるリスクは、家族と一緒に食事をする高齢者と比較して女性で1.4倍、男性では2.7倍も高いそうです。


うつ病にはさまざまな原因がありますが、特に高齢者の場合は「セロトニンの減少」も大きな要因のひとつといわれます。セロトニンは感情や気分をコントロールする脳内伝達物質で、年齢とともに分泌量が減少していきます。高齢になるほどうつ病のリスクが高くなるのはこのためです。

ちなみにセロトニンのもととなる「トリプトファン」は体内で生成されません。このためセロトニン不足を補うには、食事を通してトリプトファンを含む良質のタンパク質を摂ることが必要です。つまり孤食によって食事の量が減ったり栄養が偏ったりすると、ますますうつ病のリスクが高まってしまいます。


孤食のリスクに対処する方法

孤食は社会環境や個々の家庭の事情によって発生するため、孤食そのものをなくす(解消する)のは簡単ではありません。ここではより現実的に、孤食による低栄養などのリスクに対処する3つの方法をご紹介します。


①1日3食を心がける

もっとも取り組みやすい方法は「1日3食を心がける」ことです。

ひとりで食事をすると食事回数が不規則になりやすく、人によっては1日1食程度で済ませてしまうケースも少なくありません。

一定の食事量を確保し、生活に必要なタンパク質やエネルギーを補充するためにも、まずは規則正しい食事習慣を目指しましょう。食事が規則正しくなれば生活リズムも整い、食欲増進にも役立ちます。


②栄養バランスに気を配る

バランスのよい食事のイメージ

次に「栄養バランス」にも気を配りましょう。ひとり分の食事を用意するのが面倒だからといって「インスタント食品」や「コンビニ弁当」のような食事に頼りすぎると、仮に食事の量は十分でも栄養が偏ってしまいます。


栄養バランスといっても、必ずしも「毎回自炊する」必要はありません。たとえばスーパーやコンビニの弁当や惣菜などでも、組み合わせ次第では十分に栄養バランスを補うことができます。普段の食事にもう一品、例えばサラダなどを添えてみるのも良いでしょう。

大切なのは継続することです。無理のない範囲でちょっとした「一工夫」を心がけて、栄養の偏りをなくすようにしてください。


③「共食」の機会をつくる

誰かと一緒に食事をする「共食」のイメージ

孤食の反対は共食です。誰かと一緒に食事をすれば、食事の回数や分量、栄養バランスに気を配りやすくなります。また親しい相手と一緒なら食事が「楽しい時間」になるため、食べ物をより美味しく感じて、さらに食欲がわいてくるでしょう。


とはいえ、一人暮らしの高齢者にとって共食の機会はそれほど多くありません。近所に家族や仲の良い友達が住んでいないという人ならなおさらです。

そのような場合は、地域のコミュニティで行われている食事会イベントなどを探してみてください。地域によっては、自治体がそのような場を用意しているところもあります。

高齢者支援施設のデイサービスやショートステイも利用するのも有効です。そうした施設では専門の管理栄養士が高齢者に適したメニューや栄養バランスを考慮して料理を作っているため、低栄養などのリスクを減らすことができます。


まとめ

高齢化が進むにつれて孤食が増えるのは仕方のないことです。しかし孤食によって食事が偏り、低栄養やうつ病などのリスクが高まることは避けなくてはなりません。

孤食の問題は、高齢者本人や周囲のちょっとした気配りで改善できます。自治体や高齢者支援施設などのサポートも積極的に活用しながら、充実した食生活を送るように心がけてください。また、歳を重ねれば重ねるほど自炊することが難しくなります。3食バランスの良い食事を提供する高齢者向けの賃貸住宅も増えています。そういう住み替えも選択肢のひとつになります。